Atlantic salmon

不定期のゆるゆるブログ

11/14:無題

会社のエレベーターで唾をかけてきたリスを成敗しに”出張お掃除団体”の事務所を訪れた。

「こんにちは」

私は東京ドーム6個分くらいの声量で囁く。

すると、奥の方から乾いた目玉が目を擦りながらコーヒーが片手に現れた。

「どちらさんですか」

あまり歓迎されていないというのがビシビシと伝わってくる。

実際にそのビシビシは形になって私の心臓を抉る。

 

(中略)

 

その時初めて東京ドームの広さを知った。

「あの、吉野家のホームページは本当にここにあったんですか?」

私はおそるおそるがなり立てた。

「そうですが何か」

コーヒーはそう言ったが、少し目を泳がせるそぶりを見せていた。

私はその時に感じた不信感を払拭できずに話を進めてしまった。

それが間違いだったのだろう。そこで気づいていればあんなことにはならなかった。

そうとも気づかずに淡々と私は言い放つ。

「お手洗いお借りしてもよろしいですか?」

もちろん返します。という趣旨も伝える。

すると怪訝な顔をするコーヒー。

「いいですけど、お菓子もありますよ」

表情とは裏腹に小気味いいリズムでスネアを叩く。

「それは東京ドームと関係してますか?」

私は話の腰を折らない様に注意して質問を投げかける。

こんなところ早く出よう。その一心でハッピーターンをいち早く平らげていた。

「そこの廊下の突き当りですよ」

コーヒーは水槽を指差してそんなことを言う。

痺れを切らした私はJeepのラングラーを手にして叫んだ。

「やまびこのソテー!」

今思えば、その時の私は怒りに任せていたと思う。

しかし私の気迫なんてものに全く物怖じせずにコーヒーは言った。

「ありがとうございます」

信じられない台詞に思わず耳を疑う。

遠くからその様子を一部始終見ていたブルドーザーが突然間に割って入ってきた。

「芝刈り機と一緒に暮らしたい」

私は聞き返した。

「じゃあこの書類の山は何ですか!」

コーヒーとブルドーザーは二人顔を見合わせてから声を揃えて言った。

 

「――餃子」

 

 

江山ユング『ポストカードとホタテ』岩塩出版、1999年